テレワークは労働者の権利ではない?国内外の状況とテレワークを実現するためにできることを解説
テレワークは労働者の権利なのか―。
コロナ禍で急速に普及したテレワークですが、その法的な位置付けは明確ではありません。
そのため、テレワークを希望する場合でも確固たる根拠がなく、企業に主張しにくいことがあるかもしれません。
そこで今回は、日本におけるテレワークの法的な位置付けと海外の事例を確認したうえで、労働者がテレワークを実現するためにできる具体的な方法について解説します。
テレワークは労働者の権利ではない?テレワークの現状と法的な位置づけ
ここ数年でテレワークが急速に普及しているものの、現行の労働基準法や労働契約法にテレワークを明確に「権利」として保障する規定は存在しません。これは、労働者がテレワークを希望したとしても、それを企業側に義務付ける法的根拠がないことを意味します。
テレワークは「推奨」にとどまるのみ
一方で、厚生労働省はテレワークの導入を促進するためにガイドラインを作成しており、企業に対してテレワークの導入を推奨しています。しかし、推奨にとどまっているのはこのガイドラインに法的拘束力がないからであり、企業が従わない場合でも直ちに問題とはなりません。
2020年のコロナ禍において、政府は企業に対して積極的にテレワークの導入を促しましたが、実際に導入するかどうかは企業の裁量に委ねられました。
企業がテレワークを導入しない理由はさまざま
具体例として、ある大手IT企業ではパンデミック期間中に全従業員がテレワークを行っていましたが、感染状況が沈静化した後は再びオフィス勤務に戻す方針が取られました。労働者が「テレワークを続けたい」と主張した場合でも、企業がそれを拒否することは法的に問題ありとはならなかったのです。
企業がテレワークから出社に戻し、以降はテレワークを認めない姿勢になる理由は、感染状況が落ち着き始めたからだけではありません。
たとえば、製造業の企業ではテレワーク導入に慎重な姿勢を崩さず、従業員がテレワークを希望してもそれを認めないケースが多く見られます。これは、製造業特有の業務内容がオフィスでの対面作業を必要とすることが主な理由ですが、こうした業務形態特有の事情によりやむを得ず原則出社としていることもあります。
このほか、対面重視の文化が根強い場合やテレワークを円滑に進めるためのITインフラの未整備、テレワーク中の労働時間管理の難しさ、テレワークで仕事の生産性が下がることへの懸念など、その理由は企業によってさまざまです。
テレワークにまつわる課題の解決にはまだまだ時間がかかるでしょう。
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テレワークの権利化に関する各国の状況
テレワークは諸外国でも急速に普及していますが、テレワークはあくまで企業が労働者に与える“福利厚生の一環”という考え方が強い傾向にあり、労働者の「権利」として認められるのは日本と同様に難しいようです。
フランス
フランスでは2017年の労働法改正により、労働者はテレワークを要求する権利を持つこと認められ、雇用主は労働者がテレワークを希望した場合、検討する義務があります。しかし、雇用主が合理的な理由を持って拒否できるとも規定しています。
オランダ
オランダでは2016年に施行された「柔軟な働き方法」(Flexible Working Act)により、労働者にテレワークを含む柔軟な働き方を選択する権利を保障しています。この法律では労働者は勤務時間や勤務場所の変更を求めることができ、企業側は合理的な理由がない限り、これを拒否することができません。
ただし、テレワークが労働者の権利として認められているわけではない点に注意が必要です。
ドイツ
ドイツではテレワークが労働者の権利として保障されているわけではありません。テレワークを労働者の権利とする法律を成立させようとする動きがありましたが、産業界からの強い反発ゆえ、実現に至っていません。
アメリカ
アメリカでもテレワークが法的な権利として明確に規定されているわけではありませんが、多くの企業が柔軟な働き方を採用しています。ただし、パンデミック以降はハイブリッドワークが多くなっており、GoogleやMicrosoftはその代表的な例です。
韓国
韓国ではITを活用して従来のオフィス勤務にとらわれない柔軟な働き方を実現する取り組み「スマートワーク(Smart Work)を推進していますが、テレワークを労働者の権利とする段階には至っていません。
インド
インドでは、パンデミックを契機に多くの企業がテレワークを導入しましたが、テレワークを権利として認めているわけではありません。しかし、IT企業を中心にテレワークの定着が進んでおり、特に大都市での通勤時間の長さが課題となっていることから、従業員がテレワークを希望するケースが増えています。
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テレワークを実現するために労働者ができること
日本ではテレワークが労働者の権利として明確に保障されているわけではありませんが、労働者がテレワークを実現するためにできる具体的なアクションがあります。
データや実績を活用して企業に直接交渉する
・テレワークでも生産性を維持または向上できることを証明する
企業がテレワーク時の働きぶりに懐疑的な場合、生産性を維持・向上できることを証明しなければなりません。
たとえば、IT企業の従業員がコロナ禍でのテレワーク期間中にプロジェクトの納期を短縮し、品質も向上したとします。こうした具体的な実績やデータで示すことで、テレワークが業務効率を高めることを証明し、企業側に納得してもらう方法があります。
・テレワークによるコスト削減案を提案する
テレワークは通勤費やオフィスの維持費を削減できる点で、企業にとってもメリットがあります。実際、大手金融機関の一部では、オフィスの縮小に伴い大幅なコスト削減を実現しました。このような企業の事例を引き合いに出し、テレワークで同様の効果が期待できることを提案してみましょう。ただし、何の費用が、どのくらい削減できるのか……といった具体的な提案をすることが前提です。
雇用形態によりテレワーク不適用がある場合は専門各所と連携・相談
雇用形態(正規雇用か非正規雇用か)により正当な理由なくテレワークが許可されない場合には、専門各所と連携・相談してテレワークの導入を求めることも可能です。
・労働組合の活用
労働組合に所属している場合、組合を通じてテレワークの導入を要求することができます。大手製造業では労働組合が従業員の声を代弁し、企業側と交渉することで、一定の日数のテレワークを導入することに成功した事例があります。
・労働局の相談窓口や労働基準監督署への相談
企業が合理的な理由なくテレワークを拒否した場合、労働局の相談窓口や労働基準監督署に相談することが考えられます。監督署は労働者の権利が侵害されているかどうかを調査し、企業に対して是正指導を行う権限を持っていますから、社内での交渉が進まない場合はこちらの方法も検討してみましょう。
企業のイメージの向上に結び付けて提案する
・採用と企業イメージ
テレワークの導入は柔軟な働き方ができるという企業アピールとなり、優秀な人材の採用につながります。
あるスタートアップ企業ではテレワークを全面的に採用することで、短期間で優秀なエンジニアを多数採用することに成功しました。こうした成功事例を企業に提示し、テレワークの導入が企業の競争力を高めることをアピールすることで、企業側の理解を得やすくなります。
テレワークの権利化に向けた今後の課題と展望
テレワークを今以上に普及させるには、まず、法改正によりテレワークを労働者の権利とすることが重要になるでしょう。
次に、対面重視の働き方から柔軟な働き方を受け入れる企業側の意識への転換も求められます。
また、安定した通信環境やセキュリティ対策を含むITインフラの整備も、テレワークの生産性を高める観点から欠かせません。企業経営者や管理職がテレワーク時の生産性に懸念を持ったままではテレワークの導入は難しいでしょう。
最後に、労務管理の改善も重要です。企業の労務管理者は各労働関連法を順守しなければなりませんから、テレワーク時の労働時間の把握や働きぶりの確認を容易にするためにも、クラウド型の勤怠管理ツールやプロジェクト管理ツールの導入が望まれます。
労務管理者の負担がテレワーク導入のネックとなっている場合は、従業員自らこのようなツールの活用を提案してみましょう。
まとめ
テレワークが労働者の権利となっていなくても、従業員が積極的に行動することでテレワークが実現する可能性は十分にあります。まずはテレワークによって企業にもたらされるメリットを挙げて企業側に提案してみましょう。
従業員が自ら行動を起こすことで、それぞれが望む働き方を手に入れるチャンスが広がります。
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