リモートワークに潜む「リモハラ」とは?具体的な事例と対策について解説
リモートワークが急速に普及する中で、新たな問題として注目されているのが「リモハラ(リモートハラスメント)」です。従来の職場環境では見られなかったハラスメントがリモート環境で表面化し、企業と従業員に大きな影響を与えています。
厚生労働省も「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を改訂し、リモートワーク下においても企業は各種ハラスメントに対して適切に対処する義務を強調していますが、当事者である企業と従業員がリモハラについて理解していなければ行動の起こしようがありません。
そこで今回は、リモハラとは何か、どのようなリスクをもたらすのか、そして企業と従業員が取るべき対策について詳しく解説します。
目次
リモートワークでのハラスメント問題:リモハラとは?
リモハラとは「リモートハラスメント」の略で、リモートワーク環境で発生するハラスメント行為を指します。リモハラは、主にオンラインでのコミュニケーションを通じて生じる過剰な圧力や不適切な行為、さらには過度な監視などが含まれます。
リモート環境では対面でのやり取りがないため、相手に与えるストレスやプレッシャーが見過ごされやすく、ハラスメントが見えにくいという厄介な性質を持っています。
にもかかわらず、被害者が感じる精神的な負担やストレスは、対面の職場で起こるハラスメントと同じか、状況によってはそれ以上に深刻です。
リモハラによる孤立感や心理的プレッシャーは長期にわたり従業員の心身に影響を与え、生産性やメンタルヘルスに重大な悪影響を及ぼしかねません。
リモートワークでよく見られるリモハラの事例
どのようなことがリモハラに該当するのでしょうか。
ここからはリモハラに該当する具体的な事例を見ていきましょう。
常時オンライン状態を強要する
リモートワークでは従業員の作業状況が見えにくいため、上司が常にオンラインでいることを強制してしまうケースがあります。
たとえば、勤務時間外や休暇中でもメッセージへの即時対応を求めたり、長時間にわたってオンラインミーティングに参加させたりすることです。これにより、従業員は常に「監視されている」と感じ、精神的な負担が大きくなります。
こうした要求が続いてプライベートな時間が奪われると、仕事と生活のバランスが崩れ、結果として生産性やモチベーションの低下につながるでしょう。
監視ツールの過度な使用
リモートワーク環境では従業員の業務内容や進捗を管理するために監視ツールが使用されることがあります。
このようなツールは労務管理を兼ねていることがあるため適切な範囲であれば問題ありませんが、過度な監視はハラスメント行為とみなされかねません。
一般的に、リモートワークはだらけやすい傾向があるため適度な緊張感を与えることは有効ですが、度が過ぎるようでは従業員に大きなストレスを与え、業務に対する不安感や無力感を引き起こしてしまいます。
ビデオ通話での不適切な要求
リモートワークにおいて、ビデオ通話は重要なコミュニケーション手段の一つです。しかし、使い方によってはハラスメントとなり得ます。
たとえば、業務時間中はカメラを常にオンにすることを強要したり、プライベート空間を映すよう要求したりすることが挙げられます。
特に、家族や生活環境を映すよう要求する場合、個人のプライバシーが侵害されていると感じるケースもあるため、無意識に行ったとしても重大な問題となり得るでしょう。
コミュニケーション不足による孤立感
リモートワークでは対面のコミュニケーションが減少するため、従業員が孤立感を感じやすくなりますが、これがリモハラにつながる場合もあるようです。
たとえば、上司や同僚が過度に干渉しないようあえてコミュニケーションの頻度を減らしたとしても、相手側が「無視されている」と感じるケースです。
リモートワークの特性上、日常的な雑談や小さなフィードバックが減少するため、従業員が組織との一体感を失いやすく、このようなすれ違いが生じてしまいがちです。
オンラインでの外見に関する指摘
オンラインミーティングでは画面越しに同僚の姿が映し出されますが、その外見についてコメントすることもリモハラにつながる可能性があります。
「もっときちんとした格好で参加すべきだ」「やる気がない表情をしている」「化粧をしていない」などが代表的な例であり、多くの場合は業務と直接関係がないコメントであるため、言われた側にとっては”余計な一言”です。
リモートワークでは自宅というプライベートな空間で働いていることが多いにもかかわらず、オフィスと同じ基準の身だしなみを求められるとプレッシャーを感じてしまうでしょう。
不適切なチャットメッセージやスタンプの使用
リモートワークでのコミュニケーションはチャットツールを使うことが多いですが、チャットメッセージで圧力をかけるような文言や絵文字、スタンプを使用することは相手にストレスを与えリモハラとなることがあります。
軽い冗談のつもりでも、受け取る側が同じように感じているとは限りません。
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リモハラが起こる原因とは?
では、上記のようなリモハラはなぜ起こってしまうのでしょうか。
リモハラが起こる原因について詳しく見ていきましょう。
コミュニケーションの不足と誤解
リモートワークでは非対面でのコミュニケーションが中心となるため、相手の意図が正しく伝わらず、指示が厳しく感じられたり、圧力と受け取られたりすることがあります。文字だけのやり取りでは、言葉のニュアンスが伝わりにくく、誤解が生じやすいのです。
簡単な指示や質問でも相手が「冷たく感じる」「強制されている」と感じた場合、間接的なリモハラとなってしまうことがあります。
過剰な管理
上司がリモートワークでの進捗管理に不安を感じることで、過度な報告や頻繁な連絡を強要する例が見られますが、この「見えないからこそ管理しよう」という姿勢が、従業員に過剰なプレッシャーを与え、ハラスメントとして捉えられてしまうことがあります。
仕事とプライベートの区切りがつかない
リモートワークではオンラインであればいつでも同僚と連絡が取れるため、勤務時間とプライベート時間の境界が曖昧になるというデメリットがあります。
そのため、勤務時間外や休暇中に連絡が来たり、即座に対応を求められたりすることが頻繁になると、従業員は「常に仕事をしている感覚」に陥り、リモハラとして認識されるようになってしまいます。
プライバシー侵害の容易性
リモートワークでは同僚と物理的な距離があるにもかかわらず、実はプライバシーが侵害されやすいデメリットがあります。特に、状況によってはプライベートが大きく晒されてしまうビデオ通話は使い方を間違えると従業員に大きな心理的負担を与えてしまいます。
在宅勤務の場合は操作一つ・要求一つで自宅の様子が映ってしまうわけですから、ビデオ通話を利用する全員がプライバシー侵害の可能性を理解し、お互いに配慮し合う姿勢が求められるでしょう。
リモハラを放置した場合にもたらされるリスク
リモハラは従業員だけでなく、企業にも重大なリスクをもたらしますが、それは具体的にどのようなリスクなのでしょうか。
生産性の低下
リモハラが発生すると、従業員はストレスや不安を抱えながら仕事をすることになり、その結果モチベーションと生産性の低下につながります。
上司から頻繁に報告や進捗確認を求められることでプレッシャーとストレスが募るうえ、集中力が途切れ、作業効率が悪くなるケースはよく見られるパターンです。
従業員のメンタルヘルスへの悪影響
リモハラの最も大きなリスクの一つは、従業員のメンタルヘルスに与える悪影響です。
長期間にわたってリモハラが続くと精神的な疲労が蓄積し、うつや不安障害などの深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。
これにより、従業員の健康が損なわれるだけでなく、休職や退職につながるケースも考えられます。人材の流出や新たな人材確保にかかるコストの増加は企業にとって大きな打撃です。
企業の評判リスク
企業の評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。特にSNSや企業の口コミサイト等インターネット上で従業員の声が拡散されるリスクが高まり、企業の働き方に対する信頼が失われる恐れがあります。悪評が広がれば企業に対する外部からの評価が下がり、顧客や投資家からの信頼を失うことも考えられるでしょう。
法的リスク
さらに、リモハラが原因で法的な問題に発展するケースも考えられます。従業員からの訴訟を提起されたり、労働基準監督署からの調査を受けたりすることによって、企業側が多額の費用と労力を費やす可能性も十分あり得ます。
リモハラ防止のために企業・従業員が講じるべき対策
従業員に大きな精神的負担を与えるだけでなく、企業全体の生産性や評判にも深刻なリスクをもたらすリモハラを防止するためには、企業と従業員双方が以下のような点を心がけることが大切です。
企業側の対策
・連絡手段や連絡可能時間について明確なルールを設定する
リモートワークにおける従業員同士の連絡可能時間を全従業員に周知することが重要です。
急を要すること以外で勤務時間外や休日に連絡をすることがないよう、オフタイムを尊重する風土を作りましょう。連絡手段や対応時間をルール化することで、リモハラを未然に防止できます。
・社内コミュニケーションを大切にする
リモハラが起こる要因の一つはリモート環境におけるコミュニケーション不足と、そこから生じる誤解です。
企業は双方向の意思疎通がスムーズに行われる環境を整え、各チームとその管理職が効率的なコミュニケーションを取るよう促しましょう。従業員の孤立感を防ぎ、リモハラの発生防止にもつながります。
ただし、円滑なコミュニケーションのためとはいえども、オンライン飲み会やオンラインランチ会のようなオンライン上のイベントを強制するようなことは避けてください。
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・過度な監視体制にはしない
過度な監視はリモハラを引き起こす原因になります。従業員の作業状況を把握するツールを導入する際は、その目的や使用範囲を明確に説明し、従業員の合意を得ることが大切です。
・メンタルヘルスサポートを充実させる
メンタルヘルスサポート体制を整え、従業員がストレスを抱えた場合に相談できる社内の相談窓口を設置することは非常に有効です。また、オンラインのカウンセリングサービスや産業医との面談の機会を提供したりすることもおすすめです。
従業員側の対策
・オンとオフを徹底する
従業員自身もリモートワークにおける勤務時間とプライベート時間をしっかり分けるように心がけましょう。
勤務時間外はメールやチャットの着信通知をオフにする、急用でない限り自分からも同僚に連絡しないなど、自分自身を守る行動が必要です。
・不明点は自ら確認しにいく
リモートワークではチャットやメールが主なコミュニケーション手段になるためニュアンスが上手く伝わらず、誤解やすれ違いが生じやすくなります。
不明点がある場合はすぐにその点を明確にするよう心がけましょう。「何を優先すべきか具体的に教えていただけますか」「このタスクにはもう少し時間が欲しいです」といった具体的な提案や質問を通じて不明点を早期に解消することが、良好な人間関係とスムーズな業務進行につながります。
・自身のプライバシーを保護する
プライバシーを守るために、必要以上にプライベートな情報をオンラインで晒さないようにしましょう。
たとえば、カメラオンのビデオ通話では背景に自宅の様子が映り込むことがありますが、バーチャル背景を使用したり、カメラの角度を調整したりすることで、生活空間を他の従業員に見せずに済むように工夫できます。また、会議の際に常にカメラをオンにする必要があるかどうか、上司や同僚と事前に話し合うことも大切です。
まとめ
リモハラを防ぐためには、まず企業が「見えないからこそ信頼する姿勢」を持ち、そして従業員は「踏み込ませない、踏み込まない」姿勢が重要になってきます。
お互いに適切な距離感を保つことで、健全で生産性の高いリモートワーク環境を築いていくことができるのではないでしょうか。
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